栗山の地域と食が融け込む。サメオトが描く、ありたい姿

取材:柴田涼平 執筆:谷郁果 写真:葉山月飛


ーーあなたが未来に残したいものは?

「栗山町を支えてきた、お母さんたちの姿」

そう語るのは、北海道栗山町でレストラン「サメオト」を経営する早乙女充さんです。

丘の上にたたずむ、サメオト。夕暮れ時に訪れると、柔らかな灯がテーブルを照らし、静かな音が流れる空間が広がっていました。

栗山町に移住されてから、2021年にレストランをオープンさせた早乙女さん。移住したからこそ見える栗山町の姿、そして料理や「サメオト」への思いに迫ります。

▼インタビューの様子は音声でも聴けます。

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目次

飲食の道を歩み、たどり着いた栗山の暮らし

学生時代に飲食に目覚め、イギリス、東京という食の最前線に触れたのちに行き着いた栗山というまち。その背景を紐解いていきます。

ーー最初に、早乙女さんの経歴をお聞きしてもいいですか?

早乙女:私は1980年、北海道苫小牧市で生まれました。高校卒業後は、地元を離れて京都の大学に進学。学生時代に飲食店のバイトを経験したり、食文化について学ぶ中で「食がどれだけ国にとって大事なものなのか」を知りました。大学卒業後と同時に、一般企業には入らず、飲食の道に進むことに。

料理人を目指し、京都、イタリア、東京で修行を重ねて、栗山にたどり着きました。

ーー早乙女さんが栗山に移住されたきっかけは何だったのですか?

早乙女:東京でイタリアンのコックとして働いて、5.6年経ったときでした。弟が栗山に移住する話を持ってきたんですよね。もともと、独立して開業するなら地元の苫小牧でやろうと思っていたんですけど、弟が「札幌から車で1時間程度で着くまちのほうがいいんじゃないか」ということで視点を変えることに。

各候補地にいろいろと相談する中で、栗山町役場の方がすごく親身に話を聞いてくれたんです。

思い切って、当時東京で働いていたお店を1か月休み、妻と2人で“ちょっと暮らし”という、栗山町で1か月のお試し移住制度を利用しました。コテージに住んでいたんですけど、朝聞こえてくるゴルフの音、窓から見える綺麗な雲海がとても気持ちよかったですね。

この物件(サメオト)も景色がきれいなのが気に入ったんです。役場の方も、開業まで手厚くサポートしてくださいました。

ーー地域おこし協力隊などの制度ではなく、弟さんや役場の方のサポートで、はじまったんですね。

早乙女:栗山町に来てから2年くらいは開業準備期間でした。まちに来てすぐに店をつくる、というのもできなくはなかったんですけど、最初は農家さんと触れ合いたかった。どこで、だれが、なにを作っているのか、知りたいなと思ったんです。

でも、当たり前ですがまちには農家さんだけでなく、さまざまな人がいます。まちのことをもっと知るために、農業のお手伝いをしながら、色んな仕事をしましたね。まちの人から紹介してもらう仕事は全部受けるようにしていました。

まちの仕事を通して知ったのは、いろんな事業者さんがいて、誰と誰が繋がっているのかということ。あと、みんなそれぞれ面白い趣味を持っていることも知りました。漠然とですが、まちの面白さを感じていましたね。

ーー開業準備期の積み重ねのなかで、やってきてよかったことはありましたか。

早乙女:開業準備時期に、ゴミ収集車の助手の仕事をしていたんです。パッカー車に乗って、町内をグルッと一周。誰の家だとか、事業者さんの看板だとか、まちのより詳細な状況を知ることができましたね。

町内でも地域によって、ゴミステーションの様子が違うんです。捨て方の丁寧さとか、どんなゴミが多いかとか。あとは、ゴミはただ回収するんじゃなくって、ひとつひとつ中身を確認するんですよね。日常の中で、こんなに苦労してやってくれている人がいるんだなってわかったのは、すごく貴重な経験でした。

ーーゴミ収集の仕事もされて町を知る中で、栗山町の良さはどんなところに感じでいますか?

早乙女:まずは自然豊かな環境です。月の本当の明るさに気が付きました。都心に住んでいたら夜でも明るいですから。ここは物音もしないし、生活の中でストレスを全く感じません。

都会から離れた自然豊かなまちでありながらも、空港が近い。買い物もネットの時代で、SNSを使えば誰とでも連絡が取れるから、都市部から遠いなと感じることもない。

栗山町の自然豊かな景色だけは、都市部の人は絶対に味わえないから。これからも僕は、このまちは綺麗であってほしいと思っています。

足し算も引き算も必要。絶妙なバランスが、居心地の良さにつながる

栗山町の自然の豊かさやまちの人のあたたかさに惹かれてやってきた早乙女さん。2年間の開業準備を経て、2021年8月にサメオトを開業しました。

ーー早乙女さんがお店づくりで大事にしていることは何ですか?

早乙女:バランスですね。栗山町という土地の姿があって、この建物があって、僕たちがいる。その中で何かが突出しすぎていても駄目だと思うんです。

例えば、この建物って日本らしさと外国らしさが混じっていますよね。料理もそれに合わせて、和とイタリアンを融合させていく。建物を全体的に見ると、がっしりとしているつくりなので、接客は緩めに。僕はよく話すほうだから、妻は裏方でサポートに回る。

お店のBGMも、器も、料理も、建物も、地域も。足し算をしたり、引き算をしたり、バランスを平行に保つことで居心地のいい空間になると思っています。

ーー「バランス」を大事にするようになったのは、きっかけがあったのですか?

早乙女:飲食を始めた当初お世話になっていた先輩と、東京で働いていた時のボスから、「スペシャリストではなく、ジェネラリストになりなさい」と言われていたんです。

料理人だからって、料理だけできてもまだまだ。「経営や売上、サービスなどいろいろなことを知っている料理人になりなさい」ということです。お二方から言われた”ジェネラリスト”という言葉はずっと大切にしています。

ーー全ての領域でバランスや言葉を大切にされているのですね。

早乙女:”ジェネラリスト”でいようという気持ちはありますが、僕は不器用なのでできないことはできないです。ただ、不器用さから逃げていちゃいけないと思っています。

開業にあたって壁を塗ったり、冬に向けて薪を割ったり、開業したら確定申告をやったり。まちのみなさんへご挨拶をして。レストランでは自分で料理を運んで、ワインの名前とか特徴も覚えて。やることはつきないです。

不器用でうまくいかなくても、絶対に逃げちゃいけない。できるように努力を重ねています。

ーー栗山町でレストランをやっていくなかで、楽しさを感じる場面はどこですか?

早乙女:異業種の方となにかを作り上げたときです。栗山町に来て、建設関係の方、農家さんやアーティストの方、そういう方たちと一緒に仕事をしています。打ち合わせを繰り返して、やっとカタチになる瞬間がすごく新鮮で面白いです。

お店に飾ってあるお花も、毎日山へ散歩に行かれるご夫婦からいただいているんです。お店がオープンする前から、「お花飾ってくださいね」とお願いしていたのですが、いざ実現するととても嬉しかったですね。あの瞬間は鳥肌が立ちました。

ご主人は写真を撮られる方なので、去年の暮れにはサメオトの2階で写真も飾りました。ここを建てて、人と繋がって、良かったなと心から思いましたね。

ーー料理の中にも、地域を大切にされていますよね。

早乙女:サメオトでは地域の食材を使っています。100%栗山産にできたときもあります。できるだけ食材を作っている方のストーリーも、お客さんに伝えるようにしているんです。

せっかく栗山町に来てもらったので、なにかひとつでも栗山町の良さを感じてもらいたい。まだ栗山町の良さを知らない方も、ぜひサメオトにお越しください。

まずは「挨拶」から。たくさんの人に触れて欲しい

栗山町に移住されてきて、今では地域の方ともすっかり打ち解けている様子。イタリアに住んでいた時の経験が、今のコミュニケーションにつながっているといいます。

ーー移住し始めて、大切にしていたことは何ですか。

早乙女:単純な話ですが、目を見て挨拶をする。そこだと思います。

イタリアに住んでいたときに挨拶の大切さを感じました。彼らは、まちの中を歩いていても誰にでも声をかけるんです。急に「チャオ!君、たばこの火を貸してよ」って言われて。「僕はたばこ吸わないんです」と答えたら、「じゃあビールでもどう?」って誘われるんですよ。突拍子なく(笑)

栗山町に来てもそんな感じで、「どうも〜」とか、「こんにちは」とかそういうカルチャーを大切にしていきたいって思ったんです。

ーー今後、栗山町に移住する人に伝えたいことはありますか?

早乙女:とにかく、多くの人と触れ合ったほうがいいです。同じ移住者同士ではなくて、勇気を出して、まちに長く住んでいる人と会ってみると、いろいろ見えてくるものがありますね。

まちの人と関わっていくことで、自分がまちの中でどういうポジションなのかっていうのがわかってくるんです。最初はまちの中でうろうろしてしまいますが、段々自分の居場所がわかってくると面白いですよ。

いろんな人に触れ合うことで、栗山町というこのまちにも愛着がわいてきます。「サメオト」をどういうものにしたら、まちの人が来てくれるのかをたくさん考えるようにもなりましたね。

栗山の農を支えた、お母さんの姿を残したい

ーー最後に、早乙女さんが未来に残していきたいものは何ですか。

早乙女:栗山の農業を支えてきたお母さんたちの力です。すごく働き者なんです。旦那さんを支えて、家事もして、家族の世話をして、畑仕事もやる。その姿勢が素晴らしくって。

地域や産業を支えてきたお母さんたちがいるからこそ、今の栗山町とか農業の姿がある。僕たちはその基礎の上でやりたいことをやらせてもらっているんです。そのお母さんたちの姿を残していきたいと思っています。

■サメオト

・住所:北海道夕張郡栗山町湯地29-155
・営業時間
 昼 11時30〜14時¥2,000
 喫茶14時〜17時(夜の準備で休む事もあり)
 夜 18時〜20時¥3,300 ¥5,500 (前日まで予約制)

・定休日
 火曜・水曜/不定休あり(詳細は公式Instagramよりご確認ください)

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