栗山の自然との共生。暮らしの中に温かな炎を灯す

取材:柴田涼平 執筆:安達俊貴 編集:三川璃子 写真:小林大起


── あなたが未来に残したいものは?

「身近なものを大切にできる優しい心」

そう答えてくれたのは、北海道栗山町に住む、キャンドル作家の櫻井芳枝さん。豊かな自然に囲まれた環境で、キャンドルの制作・販売を行っています。

インタビュー中も終始にこやかで、ものづくりへのこだわりや、栗山に対する慈しみを嬉しそうに語ってくれた櫻井さん。野生の動物たちを「あの子」「その子」と呼ぶなど、自然へのあふれる愛が感じられました。

キャンドルを通して、大切に残していきたい想い。

過去、現在をたどりながら、櫻井さんが見つめる未来を教えていただきました。

▼インタビューの様子は音声でも聴けます。

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目次

ものづくりが「好き」。キャンドルづくりに目覚めたきっかけ

── 櫻井さんはどのようなきっかけでものづくりを始めたのでしょうか?

小さい頃から、何かを作るのが好きだったみたいです。母が紳士服を作る仕事をしていましたので、服を作るときに出る生地の端切れをもらって、自分のバッグなどを作っていました。

母がミシンの使い方や、フリルの付け方を教えてくれて、すごく楽しんでものづくりをしていました。

東京で会社員としてジーンズショップに勤めていた頃も、事務の仕事の合間に、デニムの切り落としでいろいろ作っていました。

── 素敵なお母さまですね。キャンドルづくりについては?

キャンドルは会社員の頃から好きでした。きっかけは思い出せないのですが、炎を見るのが好きなんだと思います。子育てをしている時期によくキャンプに行って、焚き火をするくらい。

自分で作るようになったのは、友人からの後押しがきっかけです。

遊ぶ時もキャンドルを持参する私を見かねて、ベルギー出身の陶芸家の友人から「そんなに好きなら自分で作ってみたら?」と提案されました。そうか自分で作れるのか!と気づき、作ってみようと思い立ったのが始まりですね。

── そうなんですね。作り方はどのように学んだのですか?

いざ作り始めてはみたものの、試行錯誤の毎日でした。インターネットも普及していない時代でしたから、作り方も材料もすぐには手に入りませんでした。

会社帰りにいつも本屋さんに寄っては、キャンドルづくりの本を探していましたね。たまたま見つけたお気に入りの本があったんです。その著者の方のところに行って、キャンドル作りの基本を教えてもらったり。

材料もどこで手に入れれば良いか見当もつかなかったので、お仏壇で使うろうそくのパッケージを見て、作っている会社さんのところに直接伺ったんです。先方に事情を話すと、「自分でキャンドルを作るなんて人は初めてだ!応援するよ!」と言ってくださって、材料を分けてもらいました。

── すごいバイタリティ!様々な人から後押しをもらって、今の櫻井さんの活動があるんですね。

大冒険の末、たどり着いた栗山の自然と暮らし

── 当初は那須高原で創作活動をされていたと伺いました。栗山町に移住した経緯を教えてください。

那須高原では仕事場兼住居を構えて、約6年活動していました。そこが手狭になったので、家探しをしていたところ、同じタイミングで函館でギャラリーをされている方と知り合いました。個展にお誘いいただき函館に赴いたのが、北海道にくる最初のきっかけです。

北海道滞在中は、由仁町の三川に住んでいる別の知人に泊めてもらいました。その人に家を探していることを伝えると、「北海道はどう?」と提案されました。「北海道もいいかもね」と思った私は車を借りて北海道中をぐるぐる回って物件を探し、見つけたのが今の場所です。北海道に住むのを提案されてから家を見つけるまで2、3週間くらいでしたね。

── 決断が早いですね!

さすがに北海道の冬はなめちゃいけないと思い、冬にもう一度下見に来ました。キンキンに冷えた冬の北海道をレンタカーで走って、もう大冒険でした(笑)。でもやっぱり気持ちは変わらず、今の場所に決めました。大家さんにすぐ連絡して、まだ雪の残る3月に栗山へ引っ越してきました。

── そうだったんですね。ご自宅の特に気に入っているポイントを教えてください。

私が住む家は、森に囲まれた林道を100メートルほど進んだところにポツリと1軒だけある家です。自然が豊かで、ゆっくりできて、ものづくりにピッタリな環境だと思いました。

今まで何人もここを見にきて、みなさんハード過ぎると言って辞退したらしいんですけどね。私は子どもの頃から、ものづくりと同じくらい植物が好きなので、いろんな生き物に囲まれた環境がすごく合っているんです。

ヘビの脱皮、見たことありますか?うちの周りにヘビが住んでいて、よく抜け殻を拾っているんです。アオダイショウという種類のヘビなのですが、脱皮した直後は本当に青いんです。初めて見たときに感動しちゃって。

ヘビが林道をのんびり横断していることもあります。そんなときは、ヘビが渡り切るまで待ちます。毎年ヘビが出てくるのを見て、ヘビが暮らせる環境なんだなと安心します。

── ヘビの横断を待てる心の余裕が素敵ですね。自然のリズムで暮らしていることが感じられます。

動物たちがもともと住んでいるところに、私たちが勝手に住みにいっているわけですから。

自然に囲まれた場所なのでクマも住んでいて、近隣農家さんのところに出ることもあります。そんなときは、檻で捕獲されて殺されてしまうんだなと、すごく心苦しく感じます。
なので、家の周囲は草刈りをしたり、コンポストに味のあるものは出さないなど、できるだけその子たちが来ないように気をつけています。

今は便利な時代なので、インターネットなども利用しますが、家が自然の中にありますので、自然に対してはできるだけ手をかけないようにしています。なるべく農薬や除草剤を使わず、かといって餌付けもせず。動物たちが自然に、自力で暮らせるように配慮しています。

── 生態系の中で可能な限り人間のエゴを排除して、自然と共生しているんですね。

使ったら、直す。モノを大切にする心が伝わるお店

── キャンドルは、販売だけではなくお直しもされているんですね。

はい。キャンドルは使うとだんだん短くなっていきますよね。形が崩れて使いにくくなるのですが、まだ使えるんです。それを捨てて新しいものを買っていただくのではなく、もっと使いやすくなるようにお直ししています。可能な限りゴミにならないよう、最後まで使っていただけることを大切にしています。

キャンドル以外にも、持ち帰り用の袋も再利用しています。どこか別のお店でもらった手提げ袋を、ちょっとおしゃれにリメイクしてお渡ししています。リメイクに使う紙や紐も、知人が使わなくなったものをいただいてるんですよ。捨てるにはかわいくてもったいないですから。

── 作品でも紙袋でも、再利用にひと手間かけることで、永く使いましょうというメッセージになっていますね。

ギャラリーを作るときも、なるべく手間をかけて自分たちで直しましたね。天井や床板を剥がしたり、壁を漆喰やモルタルで塗ったり。近所に住むプロの方から教えてもらいながら、自分でできることはなるべく自分でDIYしました。教わった際に「きれいに塗りなさい」って言われたのですが、結局ガタガタに塗りました。ヘタウマでしょ?(笑)

「やらないうちからできない」ではなく、「やってみよう」という気持ちを大切にしたいですね。

見過ごさない世の中へ。ほっと息つく時間を届ける

── キャンドルを通して、櫻井さんが未来に残したいものを教えてください。

「身近なことを大切にする心」ですね。キャンドルに火を灯すと、どんなに忙しい方でも、ゆったりした気分になれると思うんです。同じ5分間でも、火を灯したときのほうが、時間がゆっくり進むように感じられる。炎を眺めることで、心を少しクールダウンさせることができます。

今は便利すぎる、せわしない世の中ですから、目の前のことで見過ごしてしまうことがたくさんあります。そんな時代でも心を落ちつけることで、身近なものを大切にする気持ちが生まれてくる。キャンドルを使ってもらうことで、気持ちが和らぐ時間を届けたいと思っています。

あとは「優しい気持ち」も未来に残したい。モノに対して優しさがあれば、最後まで使おうという気持ちになりますし、自然に対して思いやりがあれば、動物たちや植物たちと共に生きる暮らし方になります。誰かに喜んでほしいと願うことで、良い作品やお店が作れると思っています。そういう優しい心を大切にしたいですね。

── ここまで伺ってきて、便利な世の中に流されすぎず、丁寧な暮らしや、自然と共生する姿がとてもかっこいいと感じます。

かっこいいことなんてできないですよ。自分ができることしかしていませんから。アナログ人間だし。でも最近はアナログなのがおしゃれっていう風潮もありますから、そこは助かっています(笑)。

自然との共生については、私がこの場所が好きで「住まわせてもらっている」感覚なので。感謝の気持ちも込めて、暮らしの中では特に大切にしています。

こうして今まで気持ちよく栗山に住まわせてもらっているので、栗山のこのお店で出会った人たちの出会いも大切にしていきたいと思っています。寒くない時はなるべくここのドアを開けて、いろんな人が入ってきやすいようにしたいです。

櫻井芳枝(さくらい よしえ)
ギャラリーy
 住所:〒069-1511 北海道夕張郡栗山町中央3丁目328
キャンドルショップKOKO
 住所:〒069-1205 北海道夕張郡由仁町中央46

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この記事を書いた人

フリーのライター兼エンジニア兼ヨガ講師。
接しやすい文章を書きます。

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