【前編】「当事者」であり「支援者」。次世代に渡したい未来をつくる

久保さんトップ画像

取材:柴田涼平 執筆・編集:三川璃子 写真:小林大起


ーーあなたが未来に残したいものは?

「自分が次の世代に手渡していきたいと思える北海道を残したい」

そう語るのは、ソーシャルセクターパートナーすくらむの久保匠さんです。

ソーシャルセクターパートナー・すくらむとは
NPO法人等の非営利組織やソーシャルビジネス向けに、成長戦略策定・実行支援、ファンドレイジング(資金調達)支援、組織基盤強化などの支援を行う事業者です。
北海道の社会課題解決を促進するために、ソーシャルセクター全体の発展に寄与する取り組みを行っています。

福祉の現場に携わる中で、行き届かない制度やサポートを目の前にした久保さん。

現在はファンドレイザーに転身し、社会課題解決に取り組む様々な組織を支援しながら課題を解決しています。

「受益者ファーストの考えを大切にしたい」ーー久保さんの活動に込められた思いとは?過去現在を辿りながら、紐といていきましょう。

目次

行き届かない制度で苦しむ人をなくしたい

「ファンドレイジング」という言葉に馴染みのない人も多いでしょう。ファンドレイジングとは、非営利団体の活動資金の調達のことを指します。

団体や企業の幸せな未来を一緒に考えるため、ファンドレイザーとして独立して活動する久保さん。現在の仕事にいたるまでどんな背景があったのでしょうか?

ーー久保さんの現在の活動を教えてください。

久保:2022年1月に独立をして、社会課題解決に取り組む組織を対象としたコンサルティングを行っています。主なクライアントは、NPO法人等の非営利組織やソーシャルビジネスに取り組む企業です。

新規事業の立ち上げや、組織の基盤強化の行動計画を作ったり、ビジョンミッションの実現のために一緒に戦略を立てています。

他には、社会課題解決を加速させるための投資の仕組みであるインパクト投資ファドの設立・運営。

属性の異なる主体同士が連携して社会課題を解決するコレクティブ・インパクトの仕組みづくりを行っています。

ーー独立される前はどんな仕事をしていたのですか?

久保:障害者支援施設で、障害をもつ方の自立支援を行う仕事です。地域で自立して幸せに生活すためのお手伝いで、ご自宅に訪問して家事援助したり、一緒にお出かけしたりしていました。

現場で2年間働き、その後は日本ファンドレイジング協会に入って、主に法人向けにファンドレイジング力を強化するためのプログラムを担当していました。

ーー福祉の現場の仕事を離れてファンドレイジングの仕事に転身しようと思ったきっかけはあったんですか?

久保:大学の頃から、障害者支援や災害支援の現場で活動をしていたんですが、そこで出会う人たちの生きづらさを感じて「もっと何かできないか」と考えるようになったのがきっかけです。

障害をもった本人への支援は手厚くても、親御さんの支援制度がないことがよくあります。障害をもった子の親は、本人と同じくらい辛い思いをしているのに既存の制度では解決できない。

新たな事業を作って解決したくても、当時現場で働くのが精一杯の私には解決への答えが出ませんでした。それが本当に悔しくて。お金があればできることや事業化につながることはたくさんある。

「目の前で困っている人がいるのに、目を伏せてはいけない」と思ってファンドレイジングの世界に飛び込みました。

ーー目の前の問題を解決するために「ファンドレイジング」という手段を選んだのはなぜですか?

久保:ファンドレイジングって端的に言うとお金を集めることなんですが、お金は一つの手段だと思っています。

ファンドレイジングでお金を集めるプロセスの中で人々の関心や仕組みを動かすことができて、人の共感や理解が広がっていくことで社会が変わるきっかけになるんじゃないかと。

当時の僕はファンドレイジングがいろんな意味で可能性があると感じて選びました。

大学の時にファンドレイザーの資格を取っていたので、福祉の現場でも少しずつファンドレイザーとしての業務を切り拓いていました。

もっといろんな領域で活動を広げたい思いから、日本ファンドレイジング協会に入ることを決断したんです。

ーー日本ファンドレイジング協会ではどのような活動を経て、独立に至ったのですか?

久保:日本ファンドレイジング協会では、法人向けのファンドレイジング力強化事業を主に担当して、色々なクライアントとの関わりの中で経験を身につけることができました。

でも実践を踏む中で、もっと先に見えるものを突きつめたいとも思うようになったんです。

そう思い立ってからは、経営を学ぶために大学院にも通ってましたよ。何となくこのままじゃいけないと思っていたんでしょうね。

日本ファンドレイジング協会で働きながら、副業として現場団体のコンサルティングをしていました。それらの経験で得たものを大学院で体系化する。先を見据えて動いていました。

「わからないこと」がわかる瞬間を生み出す

様々な現場団体のファンドレイジング支援、組織基盤強化、ソーシャルベンチャーの戦略コンサルティング、北海道のソーシャルセクター全体の戦略策定など、久保さんは独立後も多岐に渡って事業を行っています。

「僕は団体が抱えている課題を映す鏡の役割なんです」ーー伴走する組織の変化に対応しながら、自身をアップデートし続ける必要があると久保さんはいいます。

ーー具体的に、伴走される団体や組織の課題に対してどのようにアプローチしているんですか?

久保:社会の課題は、現場と当事者だけの間だけで生まれるものではないんですよね。いろんな人の感情、文化、人間関係が混ざり合うことで生まれるんです。

どんな人たちが関係しているのか、一人一人インタビューして可視化したり、ビジョンを設定して、各ステークホルダーに浸透させるなどしています。

どの組織にも言えることですが、環境が変わるにつれて課題も変わるじゃないですか。それに伴って我々の課題に対する関わり方も変わってくる。僕は変化に対して向き合うことが理想だと思っています。

ーー伴走するにあたって、知識のアップデートも必要ですし、変化に対しての見せ方も変えなきゃいけないですよね。 

久保:そうなんです。知識のアップデートもそうだし、今抱えている課題を映す鏡の役割になるべきだと思ってやっています。

時には自我を消しながら、時にはパッションをぶつけながら。自分のOSをカチカチって切り替えてやっていく必要があります。福祉の現場にいた経験も活かされてるんだと思います。

「わからないこと」がわかる瞬間を生み出す

ーーいやぁ器用ですね!現場にいた経験も、大学院で経営を学んだ時の経験もどちらもあるってすごく強みですね。

久保さん自身が今のお仕事をされていて、嬉しい瞬間はいつですか?

久保:いくつかあるんですが、1番嬉しいと思うのは私が入らずとも話が動いていくミーティングができたときです。

最初は私が議題を設定して、会議をファシリテートするのが続くんですが、だんだんとチームのみんなが主語となって話が盛り上がっていくんですよね。

そうすると私のファシリテーションも必要なくなっていく。その瞬間を感じるのが面白いです。

ーーチームの転換期っていうのは分かるものですか?

久保:予兆は感じます。どのプロジェクトでもモヤモヤ期が必ず来ます。ミーティングがうまく進まない、滞ってしまうときがモヤモヤ期です。この時期にメンバーから何かしら次のミーティングに対してアクションが起こった時が、転換期だなと思ってます。

モヤモヤに向き合うことが大切だと思ってるので、あえてみんなに対して「モヤモヤ」させに行くような質問をすることもありますね。

ーー混乱を避けたい人も多い中で、チームをモヤモヤさせることが重要だと思うのはなぜですか?

久保:「わかっていない」ことが「わかった」ときがモヤモヤする瞬間だと思うんです。

僕自身、福祉の現場にいた頃に制度やお金について聞かれたときは、なんて答えればいいかわからないモヤモヤを経験しました。

でも向き合ったからこそ今、僕はこの仕事ができていて、解決に向けての方向性が見えている。

自分の経験からモヤモヤを突き抜ける必要性を感じているし、突き抜けるまでのプロセスも大切だと思っているから、モヤモヤする問いを投げかけるんだと思います。


後編は12/28に公開!
久保さんが感じる当事者意識は、どこで芽生えたのでしょうか?残したい未来に迫ります。

久保匠(くぼ たくみ)
■ソーシャルセクターパートナーすくらむ 代表
 北海道NPOサポートセンター理事/北海道NPO総合戦略統括
 日本ファンドレイジング協会 法人連携推進パートナー
 チャレンジフィールド北海道 産学融合アドバイザー
 えぞ財団 ソーシャルビジネスチームリーダー
 株式会社あしたの寺子屋 Chief Impact Officer

■公式サイト:https://sp-scrum.com/
■公式SNS:  Twitter / Facebook

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この記事を書いた人

「拝啓、未来」編集長
想いをていねいに綴る。その人の“ありのまま”の言葉を大事にしています。

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