担いたいと思える酪農を。大島牧場が次世代につなぐ想い

取材:柴田涼平 執筆・編集:三川璃子


ーーあなたが未来に残したいものは?

「地元地域の活気」

そう語るのは稚内声問村の豊別という地域で酪農業に勤しむ、大島牧場代表の大島優一さんです。

牧草地が広がる道を進み、たどり着いた大島牧場には想像以上に大きなフリーストール式の牛舎と農業用機械が並んでいます。その面積は東京ドーム約20個分に相当するそう。

約300頭を飼育し、日々美味しい牛乳を生産している大島牧場。現在は離農した牧場を購入し、牛の数とスタッフの雇用も増やしながら、規模を少しずつ拡大していると言います。

「この地域に酪農という産業を残すことが、私の仕事なんです」と語る大島さん。コロナの影響で、酪農業にとって苦しい状況が続く昨今。大島さんは、もっと先にみえる未来に向かって一歩ずつ歩んでいました。

目次

酪農の未来には、必ず「人」が必要

家族経営が多い酪農業ですが、大島牧場では積極的に道内外からの雇用を増やしています。大島さんの牧場運営でのこだわりについてうかがいます。

ーー雇用を増やすことは、お金もかかりますし、管理も増えますよね。並大抵のことではないと思うのですが。

大島:短年で黒字を出そうとなると確かに雇用はリスクですが、長期的に事業を継続するには、外からの雇用が必要になります。

酪農は毎日休みなく働くものというイメージがあるんですけど、まずはそのスタイルをどうにかしないといけない。私も小さい頃、父が毎日休みなく働く姿を見て「酪農はやりたくない」と思っていました。

このままだと次世代にバトンをつなげられないですし、それぞれが休みをとって安心して働ける環境をつくることが重要だと。

大島:酪農人口は減る一方なので、1軒あたりの出荷量は増えます。なので機械化も当然必要になってくる。それでも、「人」にしかできない仕事は今後も残ると思うんです。

ロボットのおかげで作業効率は高まりますが、どれだけロボットが優れていても人の対応力には敵いません。「人」がいるからこそ牛の世話ができている。

あと、人が地域に来ることで恩恵を受けるのは私たち雇用主だけではありません。豊別に移住して生活するだけで、地域にお金が落ちるのは事実です。なので雇用は地域貢献につながるはず。

大島:若い子がいるだけで雰囲気も変わりますし、地域の色も変わってくるんじゃないかな。田舎だからといって安すぎる給料ではなく、若い子たちが不便なく生活できるくらいに私たちは雇用を進めてますよ。

ーーお話を聞いていて、大島さんから「地元愛」を感じたのですが、地域を大切にしたいと思われたきっかけはあるのでしょうか?

大島:地元が好きだから!という理由ではなく、「地元の酪農業を未来に残したい」からですね。

地域全体として魅力を感じないと、ここで働きたい人も増えていかない。半永久的に酪農業をつづけるには、まちを錆びさせないことが重要ですし、「地域を盛り上げよう」という雰囲気があった方がもちろんいいですよね。

だから、私たちの世代が率先して地域貢献にも取り組んでいかなきゃと思ってます。

写真提供:大島牧場

ふるさとと家業を残すため、選んだ「選択」

牧場を経営する上で、地域や人の循環を大切にする大島さん。

大島さんが家業を継いだのは約10年前。その前までは、服飾関係の仕事をするため上京していたそう。大島さんが地元にもどってきたきっかけとは。酪農の道に進むまでの道のりをうかがいます。

大島:子どもの頃は、「早く田舎から出たい」と思ってました。テレビで流れるものすべてが都会のものだったので、憧れがあったんだと思います。

昔から絵を描くのが好きで、服飾関係だと楽しく仕事が続けられそうという単純な理由で東京の専門学校に進みました。

でも現実は甘くなかった。デザイナーで成功する人は本当に一握りで、私より真面目で服を作るのがうまい人でも業界ではやっていけないんですよ。その光景を見て打ちのめされましたね。やることがなくなって、地元に1年帰ったこともあったんですが、やっぱり都会の方が向いてると思い、また東京へ。今思えば、当時はなんとなくで判断していたんだと思います。

ーー紆余曲折ある中で、もう一度地元に帰ろうと思ったのはなぜですか?

大島:母の持病が進行して、父が離農すると言い出したのがきっかけでした。それを聞いたときに、豊別が自分のふるさとじゃなくなるのは嫌だなと思ったんです。

そして何より、父が守ってきた牧場という資産をこのまま終わりにするのはもったいないと。当時、別の会社で正社員雇用の話が進んでいましたが、断って地元に帰ってきました。

ーー大島さんが抱く「酪農を未来に残したい」というビジョンが見え始めたのはいつ頃ですか?

大島:母の介護と並行しながら酪農に関わる中で、いろんな人に助けてもらったことが今の思考に繋がっていると思います。

獣医さんや農業改良普及所の人が親身になって、酪農の知識から農地維持のための取り組む姿勢も教えてくれました。この人たちのおかげで私は酪農に向き合うことができていると思っています。

同時期に息子が生まれたことも私にとっては大きな出来事でした。子どもの時に感じた「忙しそうだから酪農はしたくない」という構図は、自分の子どもに引き継いではいけないと思いました。

自分がやるからには、息子が「酪農継ぎたい!」と思えるような仕事にして、選択肢を残してあげることが大切だなと。最終的に酪農を選ばなくてもいいんです。少しでも「継ぎたい」と思ってもらえるようにしたいです。

ーーお父様からはどのように経営を引き継ぐことになったのですか?

大島:当初、経営について意見の入れ違いでぶつかることが多くて。引き継ぎ自体はすんなりとはいきませんでしたね。「もう俺、出ていくから」と言いかけるくらいにはうまくいっていなかった。

大島牧場は父が長年守り続けて、積み上げてきたもの。だからこそ変化に抵抗があるのは当然です。事業継承は容易いものではないと分かってはいたんですが、私もうまく話を進められなかった。

その時、助けてくれたのが叔母でした。私のいないところで父を諭してくれたみたいで。父もこれからのことを考えて、事業継承を認めてくれました。

ーーお父様もまだまだ現役の力があるからこそ、思いがぶつかることはありますよね。

大島:「どう継承するか」はなかなか難しいところです。次にバトンを渡すことを意識して準備しておかないと、継承時うまくいかずに仲違いしてしまうところも多いみたいです。私は家族の理解があったから、今も父とフラットな関係で過ごせています。私も今から次世代へ継ぐ準備をしておかなきゃいけないと考えるきっかけにもなりましたね。

大切な家族がいるから、先の困難も乗り越えられる

地元へのUターン、牧場の経営移譲、子どもの誕生。重なる人生の分岐点に立ち、見えてきた未来へのビジョン。しかし、事業を進める上で乗り越えなくてはいけない壁が何度も大島さんの前に立ちはだかります。

「常に困難、乗り越えた先に困難があるからね」と明るく語る大島さん。苦しい姿を見せず前を向き続けられるのには、「家族」という存在がいたからでした。

大島:最近はずっと酪農のネガティブなニュースばかり流れてますけど。私たちはもっと先を見ないといけないと思っています。正直今が1番厳しい状況なのは変わりないですけど、情勢に左右されやすい酪農業なんで仕方がないんです。

悪い情勢を悲観するだけでなくて、じゃあ「どう乗り越えるのか」を考えていく。次のチャンスが巡ってきたら、すぐに動けるように備えるだけ。

実はここ10年、酪農業の情勢はずっと右肩上がりでした。だからこそ私たちはこの不況も経験しておかないといけないと思っています。事業をやっていく上で苦しい状況は来ます。その時踏ん張りがきくように、今この状況を味わって自分の事業を見つめ直す良い機会なんだと思います。

ーーこれまでもたくさん困難があったと思いますが、大島さんが困難を乗り越えるときに支えになったものは何ですか?

大島:私が本当に苦しかったのは、地元に帰ってきて母が亡くなった時です。その時、妻はまだ東京にいたんですが、いろんなものを投げ打ってすぐに豊別に駆けつけてくれました。そこからずっと一緒にいてくれているので、妻には本当に感謝しかないです。

家族が笑顔でいてくれることが私の1番の支えなんだと思います。

いろんな決断を経て、今そばにいてくれる奥さんのことを考えると、困難なんて言ってられないですよね。どんなに仕事に疲れても、活力のある状態で仕事に向き合い続けたい。無気力な状態で仕事している姿を見せたら、家族も幸せにはなれないですから。

ーー家族の幸せが大島さんの原動力なんですね。

困難に対して目を背けず、前を向き続けるのはかんたんではないなと思います。

大島:困難はむしろ自分で選択した方がいいと思ってます。平坦な楽な道より、案外楽しいこともある。登ったり下がったり、一生懸命走りきる方が達成感は大きいし、得られるものも大きいと思うんです。

私は寄り道して、30歳で酪農の道を選びました。高校卒業と同時に酪農をやり始めた同年代と比べると経験の差がすでに10年以上もひらいているんですよね。

だから人より、走らないと追いつけない。人よりいっぱい自転車を漕いで、人よりいっぱい困難にあえてぶつかりにいかないと、経験値が足りていかないと思う。

気づいたら困難に立っていることの方が多いですけど、あえて選んでいることもあるかなと思います。

産業を残し、活気ある地元を取り戻す

「現状維持はマイナス。常に一歩先に挑戦していきたい」大島さんの未来に向かう強い言葉に、取材陣も胸がアツくなります。

大島牧場のこれからと、未来に残したいものをうかがいます。

大島:酪農業は、そもそも自分の代で終わらせていい事業ではないと思っていて。農地の維持は、国から与えられた酪農家の特権であり義務なんです。

稚内は他の地域よりも寒くて、作物は育ちにくい。畑作ができない分、私たちのような酪農業があります。

でも酪農は、一人でやるのは不可能。餌屋や農協、整備工場など挙げるときりがないですが、たくさんの人が関わることで成り立つ産業です。自分の代で終わらせたら周りの人たちはどうなるのか?そんなことしたら地域の衰退につながってしまうんじゃないかと。

だから自分で終わりではなく、地域と未来を守るために次世代に渡していかないといけない。

大島:これから挑戦しようとしているのは、酪農の担い手の育成ですね。まずは大島牧場で場長を担ってもらい、ゆくゆくは独立できるように環境をサポートしていきたいです。

あとは自分が離れる前までに牧場の施設を新しくすること。ロボットを導入して60頭搾乳できる施設があったらいいかなとか、コンパクトな規模の牛舎を営農するのでもいいし。いろんなスタイルの酪農家が増えてもいいなと思ってます。

すでに新しいことはやっていますが、より一層20年30年かけて次世代が働きたいと思える環境を整えていきます。

ーー最後の質問ですが、大島さんが未来に残したいものは何ですか?

大島:活気のある地域です。

私が小学校のときは、今とは比較にならないくらいもっと活気があったと思うんですよね。どこまで取り戻せるかはわからないですけど、あのときの活気が戻るといいなと思います。

人がいるから盛り上がる、そんな地域の活気を未来に残すために。目の前のことに少しずつ取り組んでいきます。

写真提供:大島牧場

「自分だけいい思いをして終わりにするなんて、格好がつかないですよ」家族や周りの人の支えがあってたどり着いた、目指すべきビジョン。大島さんの情熱と人と地域を守る愛を感じる取材でした。この想いとともに、大島牧場のバトンは次世代につながっていくでしょう。

若き代表とともに牧場を支えてくださるチャレンジ精神旺盛なスタッフを募集

搾乳作業をメインに、餌やりや牛舎清掃など酪農作業全般をお願いします。作業はイチから指導いたしますので、ご安心ください。資格取得の支援などで、より専門的なスキルアップができるようにサポートもしています。

スタッフからの意見や考えを柔軟に取り入れることができる少人数ならではの環境なので、ご自身の成長の意欲がある方にオススメの牧場です!

牛たちにとっての良い環境をつくることを一番に考え、日々努力している私たち。技術や知識はもちろん必要ですが、愛情をもって牛たちに接してくださるような方ですと嬉しいです。特に家族での稚内への移住を考えている方は、

住宅を含む待遇についてサポートできるのでご相談ください!


【酪農牧場スタッフ】 

■雇用形態 正社員 

■仕事内容 搾乳作業をメインに、餌やりや牛舎清掃など酪農作業全般 

■給料・待遇 

月給:210,000円~270,000円 ※未経験の場合には変動します。 ※家族構成によって給与・勤務時間は相談に応じます。 

賞与あり(年2回、前年度実績合計2ヵ月分) 、扶養手当あり(5,000円/人) 、休日出勤手当あり(10,000円/日) 精勤手当あり(無遅刻無欠勤で10,000円/月) 、冬季手当あり(冬場の4ヶ月は3,000円/月) 、住宅手当あり(最大20,000円/月) 

■資格

 必須 免許:普通自動車免許(AT限定可)

 尚可 トラクター、ショベル、溶接等機械作業の経験がある方は優遇 経験 農業界の経験は不問 

(作業はイチから指導いたしますので、ご安心ください。 資格取得の支援などで、より専門的なスキルアップができるようにサポートもしています。) 

年齢 40歳以下(※長期勤務によるキャリア形成のため ) 学歴 不問 


労働環境 【酪農牧場スタッフ】

■勤務時間・休日 

4:30~10:00、14:30~19:00(実働時間10時間) ※固定残業2時間/日含む ※10時間以上の残業は150%で残業手当支給 

週休3日・週休2.5日・週休2日 ※連休も取得もできます。 ※ご希望にあわせて休みは選択可能です。 

■社会保険他 労災保険・雇用保険・厚生年金・健康保険 

■福利厚生 

昇給あり(年1回、”必ず”昇給します)※技能習得に応じて昇給幅が変動します。 傷害保険加入

 有給休暇あり(法定通り入社後半年後に付与)

 車貸与の場合あり(ガソリン代込)

採用担当 
一戸隆毅 080−4040−2914
大島牧場WEBサイト:https://ohshima-farm.hp.peraichi.com/

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この記事を書いた人

「拝啓、未来」編集長
想いをていねいに綴る。その人の“ありのまま”の言葉を大事にしています。

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